ルンタへの旅 3

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    高山病にかかってしまった僕がベンチでうずくまっていると、ひとりの男に声をかけられた。だが、激しい頭痛のため何を言っているのかよくわからない。身振りから察すると、どうやら「動くな」と言っているらしい。動くと死ぬぞと……。得体のしれない恐怖が僕を襲う。しかもあたりは真っ暗だ。
    しばらくすると数人の男たちがやってきて言い争いをはじめた。そして僕を担ぎあげると急ぎ足で歩き出した。どこに連れていかれるのだろう? だが、そんな不安よりも助けてほしいという気持ちの方が強かった。
    僕が運びこまれたのは最初に声をかけてくれた男の家だった。僕の状態を危険とみて介抱するため家に泊めようとしてくれたのだ。部屋に寝かせられると、しきりに水を飲むよう勧められた。そして僕に食欲がないのがわかると、家で採れたというりんごを持って来てくれた。
    結局、彼の家には5日間お世話になった。僕に与えられたのは陽の光がたっぷりと差し込む部屋だった。手厚い看護のおかげで僕の体は徐々に回復に向かい、標高3650メートルのレーの町の高度に次第に順応していった。そして体力が完全に...戻ったのを確かめてからは、町から20キロほど離れたティクセゴンパ(寺院)を歩いて訪ねたり、結婚式に招かれたり、美人の先生が教える小学校の授業を見学したり……、初めて見るものに興奮し、人との触れ合いに感動しながら、デリーの暴動とは打って変わっての心の安らぎに身をゆだねた。
    これが、僕がチベット人と最初に出会った小さな物語である。見知らぬ異国の旅人をまるで家族のように暖かく迎えてくれたラダックの人たち。この日から僕にとってチベットは、感謝の気持ちを思い起こさせてくれる特別な対象となり、つねに気になる存在となった。
    苦しみの中で食べたあのちょっと酸っぱいりんごの味は、生涯忘れないだろう。
    (写真は小学校の授業風景とラダックの結婚式)


     

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